今そこにある危機
あんまり早く家に帰りたくないので、漫画喫茶で神の雫を読み耽った。
結果ワインが飲みたくなって、そこそこのイタリアワインを飲みながら久しぶりに駄文をタイプしている。イタリアのワインはその漫画でも言われている通り、どれも同じ方向でただひたすら陽気で明るい。従って安くても味が想像できる。オーストラリア産なんかもそうだ。本場はやはりフランスなのだろうけど、当たり外れが激しすぎる。だからオレのような銘柄を覚える気もない酒飲みにはイタリア産が手頃だ。2000円も出せばまず外れない。まーそれだけ出せば日本酒でも千寿クラスは買えるのだけれど。
ガブガブとワインを飲みながらPSO2で独り引き籠る。ガンシューターがチームに入れてくれたので、チームチャットを眺めながら、特に絡むでもなく、独りで森を回っている。昔からそういうスタイルなので、今のところあまり孤独も感じない。
そんな逃避を繰り返している。
オヤジが癌で手術になった。もう80近いので、来るべき時が来たという感じでしかない。だがそれでも仕事を休んでオフクロを連れて見舞いに行った。しかしオレ達はとても書けないような複雑な関係であるからして、オレが引導渡してやるわという意気込みで病院に乗り込んだ。
「いよぉ。まだ生きてんのかよ」
「…よくここが分かったな」
「なに死にそうな顔してんだよ」
「うるせえ」
「生きているなら生きてるって連絡しろよな。この死にぞこないが。オフクロが心配するだろうが」
「動けねえんだよ。3人がかりでやっとだぞ」
「知るか。この老いぼれめ。下にオフクロ来てるぜ」
「…呼んで来い」
分かった、少し待ってろと言い残し、オフクロを連れて病室へ。オレは外でかわいい看護婦さんいないカナーと物色していたら、さっさとオフクロが出てきた。中からオレを呼ぶ昭和の残骸のような男の声がする。
「なんだよ」
「アイツを頼む。オレは大丈夫だが、アイツが先に参っちまう」
「分かった、任せろ。それからこれがオレの連絡先だ、なにかあれば連絡しろ。死にたいなら望み通り殺してやる。それから死んだ時は、面倒くせえからちゃんと死んだとオレに電話しろ」
「そこへ置いておけ」
携帯番号を書いた名刺を枕元に置いて帰ってきた。実はこれが初めての番号交換。これも巡りあわせかと思う反面、クソオヤジがオレに電話をかけることはないだろうという確信もある。いやもしかしたら、「わりぃオレ死んだわ」という電話があるかも知れない。そんなオカルトを期待しているオレがいるのも確かだ。
出来れば孫の顔でも見せてやりたいところだが、離婚の危機に直面しているオレには難しいかも知れない。すまんクソオヤジ。オレも勝手にやって勝手に死ぬわ。