so far

心が死んでいく。経験から導かれる未来を予見し、同じことはしなくなる。80％の確率で起こるA→Bという因果関係を理解していると、もうAというアクションは起こさない。例え20％はA→Cという結果が出るにも関わらず。

これを学習効果とも老いとも言う。

知り合いの飲み屋のお姉さんがいつの間にか20歳を越えていた。出会った時にはまだ18歳だったのに。おまけにもう若くないとか言ってやがる。だが自分が今年33歳になるということよりも衝撃を受けた。

オレはこの2年間でなにか積み上げたのだろうか。日本を離れ、亜熱帯の国で暮らし、違う言葉を覚え、飲まない酒を飲むようになった。その頃、賢い連中は30歳を境に、結婚をして子供を作り、巣作りを始めた。オレはそんな連中を侮蔑と羨望が混じった濁った目で見つめている。オレが生きていく上で必要のないものは、切り落とされ、限りなく自身が望んだ単機能へと変貌していく。目的に特化した分、柔軟性は失われ、頭は固くなり、視野は狭くなる。だがその練り上げた意思は、鋼をも溶かす。

そうあろう。かくあろう。考え、念じるほどに、心が頑なになっていくのがはっきりと分かる。

ああ、そうだ、腐っているのはオレの頭の方だ。羨むのは良い。だが蔑むのはオレの腐った頭だ。それだけは間違えないようにしよう。

コロナがちょうど底をついた。窓を開けて酒を飲んでいると、この国ではもう、夏を感じる。